2024/02/28 08:54

一期一会(いちごいちえ)とは、茶道に由来する日本のことわざ・四字熟語。茶会に臨む際には、その機会は二度と繰り返されることのない、一生に一度の出会いであるということを心得て、亭主・客ともに互いに誠意を尽くす心構えを意味する。茶会に限らず、広く「あなたとこうして出会っているこの時間は、二度と巡っては来ないたった一度きりのものです。だから、この一瞬を大切に思い、今出来る最高のおもてなしをしましょう」という含意で用いられ、さらに「これからも何度でも会うことはあるだろうが、もしかしたら二度とは会えないかもしれないという覚悟で人には接しなさい」と言う言葉。一生に一度だけの機会そのものを指す語としても用いられる。(ウィキペディア「一期一会」より)


「また会って、一緒にお酒を飲みたいって言ってましたよ。」

人づてにそう聞いていながら、日々の生活にかまけているうちに、その機会を永遠に失ってしまったことがあります。それ以来、人と会うことを先延ばしにせず、対面した時には悔いの残らぬよう真剣に向き合うことを心がけていますが、毎年年賀状の季節になると、「いつか会いたいね」「出張でそっちに行ったら連絡します」などとあやふやなことを書き込んでいる自分に気付き、苦笑しています。

つい先日のこと、長年お世話になった方とこんな会話をしました。

「お元気そうですね。もう新しい生活には慣れましたか?」

「慣れないといけないのはわかっているけど、なかなかねえ。。。」

と言ってその方は少し目を伏せました。

「いいものがありますよ!」

私はキャビネットの中から書道の道具一式を出して机の上に広げました。15年ほど前に倉庫で捨てられそうになっていたのを見付け、保管しておいたのです。

「わあ!懐かしい!あなたよく取っておいてくれたのねえ。」

にわかに顔が明るくなりました。

「また以前のように、ご趣味を始められたらいかがですか?」

「そうねえ、もう力が無いから大きな字は無理だけど、小さなかな文字くらいなら書けるかなあ。」

「ほら、練習されていたものも残ってますよ。」

草書体で書かれた、私には解読不能な半紙を手渡すと

「ええ?こんなものまで?これは百人一首の歌ね。。。」



「ア・ラ・ザ・ラ・ン ...」

と目を細めながら声に出して読んでくれました。

「そちらまで私がお持ちしますから、気が向いたらいつでも言ってください。」

「嬉しい。ありがとう。」

そう言って目頭を押さえました。

一緒に部屋を出て、私の左ひじを掴みながら一歩ずつゆっくりと階段を降りると、廊下の前でお互いに深くお辞儀をして別れました。

5日後にそれが「一期一会」になるとは思いもせずに。

不思議と私には後悔の念はなく、むしろあの時にしっかりお話しできたことに満足感さえ覚えましたが、半紙に書かれていたあの歌がどんな意味だったのか気になってネットで調べてみました。

あらざらむ この世の外の 思ひ出に 今ひとたびの 逢ふこともがな

和泉式部

訳文:私はまもなく死んでしまうでしょう。せめてあの世へ持っていく思い出に、もう一度だけあなたにお逢いしたいのです。

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